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セザンヌは何をしたかったのか? [Artist]

三十数年ぶりに油絵を描き始めて、どうしても気になってししまうのがセザンヌ。
美術予備校の正面玄関にいつも掲げられていたセザンヌの模写。
ポール・セザンヌの代表作ともいえる「赤いチョッキを着た少年」 (1894-95年)
sezannnuキャプチャ.JPG

わたしの美術修行時代にとってはとても重要な作家でした。ですが今にして思えばその本質はよく分かっていなかったようです。



一般的なセザンヌ解釈としては、従来のヨーロッパ絵画の伝統的な遠近法を否定し、絵画の平面性や物質性を露わにしたこと、しそして印象派からキュビズムへの橋渡しをしたということで近代絵画の父と呼ばれています。
また、現代アートを理解する上で、絵画の平面性や物質性は避けては通れないほどの重要なテーマでもあります。

では、セザンヌは一体何をしたのでしょうか?
少し考えていきましょう。

まず第一の発見といえるのが、多角的視点の導入。
私たちが絵を描くときには、見えるがままに描くとおもいますが、これを単一視点といいます。
セザンヌ以前は単一視点で描画することが当然でした。遠近法や空気遠近法もしかり。
セザンヌは従来の方法では捉えきれない対象の存在感を描写するために多角的に対象物を観察し、画面に同時に描写するようにしました。
これはピカソのキュビズムにつながる美術における一大革命だったのです。
この発見にいち早く気がついた同時代の画家たちがセザンヌに注目しました。

下の絵はセザンヌの代表作でもある「リンゴとオレンジ」です。
りんごとオレンジ.JPG
テーブルの上に置かれた皿や果物などのモチーフを斜め上からのぞいて描いているはずなのですが、何か違和感がありますね。

そうです、それぞれのモチーフが同じ方向から描かれていないのです。
あるものは上から、あるものは下の方から、様々な角度から見て描かれているようです。
そのせいで、皿の上にのっている果物は今にも転げ落ちそうに見えますし、一般的な奥行きや空間が我々が日常眼にしてる現実と異なっているように見えます。
このように、同一画面に様々な視点で捉えられた対象物が存在してるわけですから、従来の絵画を見慣れた当時の人たちにとっては得体の知れない絵が現れたわけですね。



第二の発見は、構造的視点の導入。

これは簡単にいえば、風景を四角や丸、三角といった基本的パターンで捉えるということです。
自然を形作る基本構造の再発見です。構造的視点を導入することによって、対象物の普遍的な構造を描写することを可能にしました。
その結果、描かれる対象物は単純化されることになり、そのことにより逆にリアルな描写から遠ざかってしまうという矛盾を抱えます。

たとえば、セザンヌが生涯を通してモチーフとした「サント・ヴィクトワール山」の変遷を追っていくとよく分かります。
一枚目画像は1987年の作品です。二枚目の画像1906年の作品です。
1906年の風景は基本構造に還元され、単純化して描かれることになります。

san1887.JPG

san1906.JPG
この2つの発明によってセザンヌは何を描きたかったのでしょうか。

セザンヌが描きたかったものは対象物の普遍的な本質なのです。
ですが、そんなセザンヌの思いとは裏腹に、セザンヌの発明は私たちの目に映る「リアル」な対象物からは遠ざかるという矛盾を孕んでしいます。
結果としてセザンヌは絵画を単なる現実の模倣を超えた次元へと導くことになるのです。

また、この矛盾こそが現代アートへの展開の第一歩となるのです。

セザンヌ以前の絵画はリアルの追求でした。セザンヌ以降は絵画が現実からどんどん離れていって難解なものになっていきます。

考えてみれば、私たちの「リアル」とは対象物の一側面でしかないからです。「対象物の正確な本質」とはいくつもの「リアル」が複合的に成り立つものであり、私たちの認識を超えるものなのです。
この形而上的な「リアルの集合体」を追求したのがセザンヌであり、ゆえに彼は「近代絵画の父」と呼ばれるのです。
そして、後に現代アートの扉を開くことになるのです。

よく、「現代アートは知的な遊び」などと言われますが、単純に美しいという尺度だけで絵画を鑑賞するものでなく、哲学的な思想というコンテクストを読み解き楽しむのが現代アートです。

そんなことを意識してセザンヌの絵画を鑑賞すると、また違った見え方が出来ると思います。
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